新書で知る最新日本事情 2016年5月刊行から

日本では毎月100冊以上の新書が出版されている。「教養」から「時事」、「実用」まで多種多彩な新書群を概観することは、日本の最新事情を知ることでもある。日本で唯一の新書のデータベース「新書マップ」と連携したウェブマガジン「風」に連載の新刊新書レビューを毎月本紙で紹介する。

金持ちはより金持ちに……さまざまな格差の現実

 少子高齢化により有権者に占める高齢者の比率が増え続ける日本。さらに、高齢者の投票率が他の年齢層よりもはるかに高いことから、政治家は目先の選挙に勝つため、高齢者の既得権を守ろうとする。増え続ける高齢者が、政治に直接・間接的に大きな影響力をもつ「シルバー民主主義」の弊害は、日本だけでなく他の先進国も共通して抱える問題だという。

 『シルバー民主主義/高齢者優遇をどう克服するか』(八代尚宏著、中公新書)(写真)では、今や「弱者」とは呼べない高齢者たちを一律に優遇し続け、子や孫の世代に多額の借金を背負わせることにつながる日本の税制度、社会保障制度、雇用制度のリスクとその打開策を示していく。「シルバー民主主義」をこのままにしてよいのか、「他の年齢層よりも投票率が低い」とされる若者層にこそ読んでほしい一冊だ。

 「現在の若者で、父親の世代より稼げると確信する若者が、どれほどいるだろうか?」と問いかけるのは、『世襲格差社会/機会は不平等なのか』(橘木俊詔、参鍋篤司著、中公新書)。最近の調査では、親と同じ職業を選んだ人、つまり世襲した人は世襲していない人に比べて所得が高くなってきているという。医師、政治家、経営者をはじめとする日本のさまざまな職業における「世襲」について掘り下げ、世襲の功罪と機会の平等について考えていく。次世代が均等にチャンスを与えられることは、国の活力を維持する上でも重要なことだとしている。前の世代の不平等が後の世代へと受け継がれ、格差が連鎖することがないような対策の必要性をうったえる。

 最近の格差論で必ず話題になるトマ・ピケティの『21世紀の資本』。そもそも、英語版では1000㌻、日本語版では700㌻にもなる大書が世界的なブームとなったのはなぜか?という問いから始まるのが、『不平等との闘い/ルソーからピケティまで』(稲葉振一郎著、文春新書)。タイトル通り、不平等や格差の議論をルソーまでさかのぼり、ピケティにいたるまでその学問的軌跡を解説する。

 ピケティは、高額所得者・高資産保有者がますます富裕化していると、先進国での格差拡大警鐘を鳴らしている。『新しい幸福論』(橘木俊詔著、岩波新書)(写真)の著者は、「格差研究」の第一人者。本書では、ピケティが指摘する通り、ここ10年の間で、日本の金持ちの所得額・資産額が高騰し格差が拡大していることを明らかにしている。深刻化する格差社会の中で、「心豊かで幸せな生活」を送るために、個々人が心がけるべきことは何か、そのために企業や政府はどういう制度や政策をつくればよいかを論じていく。

 一方、『格差と序列の日本史』(山本博文著、新潮新書)は、「格差」と「序列」というキーワードから日本史から読み解き、「格差」「平等」とは何かを考えていく。日本史を学ぶ上で重要なのは、そこにある「序列」がいかなる目的や論理で制度化され、実際にその制度を運営する中でどこにいかなる形で「格差」が生まれていったかを理解することだとしている。

 『東京どこに住む?/住所格差と人生格差』(速水健朗著、朝日新書)によれば、東京一極集中の弊害が叫ばれて久しいなか、同じ東京圏内で、東京の中心部へわざわざ引っ越してくる人がここ10数年くらいの間に増えているという。都市に住む人々は何を求め、何を重要視しているか。「職住近接」のメリットや「住む場所が最大の資産」という富裕層の価値観について、実際に引っ越しをした人へのヒアリングを重ねてまとめたもの。

高齢化社会に必要とされる医療の新しい視点

 『「がん」では死なない「がん患者」/栄養障害が寿命を縮める』(東口髙志著、光文社新書)によれば、がん患者の死因を調査すると、その8割が「がん」そのものではなく、感染症で亡くなっているというデータがあるという。がん患者が感染症にかかるのは免疫機能が低下しているためだが、それはがんの進行とは必ずしも関係がなく、不適切な栄養管理による栄養障害から来ていることが多いと指摘する。

 医師である著者は、日本の医療で軽視されてきた「代謝・栄養学」という分野を開拓し、最期まで「食べたい物を口から食べる楽しみ」を奪わないためにも、チーム医療による栄養管理の重要性をうったえる。高齢者医療という観点からも重要な視点となりそうだ。

 医療機関を訪れる人、特に高齢者がうったえる症状で最も多いのが、肩こり、腰痛、手足の関節痛、頭痛など、慢性の痛みだという。患部にケガや炎症は見当たらない場合、本人の自覚症状から診断と治療をするしかないが、現状ではそうした慢性の痛みには効かない、強力な痛み止めが延々と投与され続けることも多いという。

 『西洋医学が解明した「痛み」が治せる漢方』(井齋偉矢著、集英社新書)(写真)の著者は、「痛み」が起きるメカニズムにふれ、急性的な痛みに効果が高い「原因となるターゲットをピンポイントで攻撃する」西洋医学の強力な痛み止めの薬では、より複雑なしくみで起きる慢性的な痛みには効果がないとしている。

 著者の提唱する「サイエンス漢方処方」について、身体の中で起きている異常な状態を正常に戻して行くことで結果的に痛みが消えていく、という漢方薬の薬剤としての効果や特性から解説する。「陰陽」や「虚実」といった古典的な漢方医学の言葉を一切使わずに、現代薬理学にのっとって説明することが重要だ、と主張する。

「民主化の優等生」台湾のこれから

 2016年、総統選挙で民進党が政権交代をはたし、蔡英文が台湾初の女性総統となった。新政権のもと、日中台の複雑な関係は今後どう変化していくのだろうか。『台湾とは何か』(野嶋 剛著、ちくま新書)(写真)は、元朝日新聞の特派員である著者が台湾近現代史を振り返り、日本は台湾とどう向き合うべきかを問いかける。2000年には国民党から民進党、2008年には、民進党から国民党へと、見事に8年ごとに政権交代が起きている台湾について著者は「民主化の優等生といってもいい」とし、二大政党制を知りたい人は台湾へ勉強に行くべきだとしている。

 中国の習近平主席は、21世紀のアジアに「パックス・チャイナ」(中華帝国のもとでの平和)を創ろうとしている、と語るのが『パックス・チャイナ/中華帝国の野望』(近藤大介著、講談社現代新書)。著者は1989年の天安門事件以降、長年にわたり中国を中心とした東アジアの取材を続けてきた。「パックス・チャイナ」という言葉は、「パックス・ロマーナ(ローマ帝国のもとでの平和;ローマ帝国最盛期)」にならった著者の造語である。

 中国とアジアの状態を、(アヘン戦争でイギリスに敗れるまで世界ナンバー1の地位にあった)「1840年以前の状態」へ戻そうとする、習近平外交の次の一手と、周辺国との緊張について論じている。

 『中国メディア戦争/ネット・中産階級・巨大企業』(ふるまいよしこ著、NHK出版新書)(写真)の著者は、香港に14年、北京に13年半暮らし、日本のメディアが報道しない中国社会事情について取材を続けるフリーランスライター。日本では、中国のメディアと言えば「人民日報」や国営通信社の「新華社」、そして全国テレビ放送の「中央電視台」だと思われ、「中国のメディアはプロパガンダ一色」と考えている人も多いかもしれない。

 中国のメディアが政府の検閲を受けているのは事実だが、庶民はそうした政府系メディアのニュースを鵜呑みにせず、急速に普及するSNSを通じて、最新で正確な情報を自分で求めようとしている、と著者はいう。急激なスピードで変化している、中国メディアと中国社会の最先端を報告する。

(連想出版編集部 湯原葉子)