日系人を知る入り口 日本語で書かれた関連書物

第二次世界大戦終戦から70年にあった2015年、当地では、日本人映画監督による日系人を描いた三部作の上映会が開催され、ジェイ・ルービン氏による日系人を描いた作品『日々の光』、ケイ・ヒライさんによる自叙伝『Keiko’s Journey』が出版された。新しい年を迎えるにあたり、改めて日本語で読める日系人関連の本を紹介したい。

日本語で読める日系人関連の本で古いものといえば、米国で1957年に発表され、日本では1979年に出版された、ジョン・オカダ氏による『ノー・ノー・ボーイ』が挙げられるだろう。

 本作品は、第二次世界大戦中に日系人に向けて行われた忠誠登録の第27問「日本への忠誠を捨て、米国に忠誠を誓うか」、第28問「米軍として従軍する意思があるか」のどちらにも「ノー」と答えた、いわゆる「ノー・ノー・ボーイ」のイチロー・ヤマダを主人公とする。1970年代のエスニック・アイデンティティーの高まりの中で評価を受けて再版。日本語でも翻訳された。

 日本人作家が書いた比較的古い日系人関連の本といえば、山崎豊子氏による『二つの祖国』(1986年・新潮社)が挙げられるだろう。ロサンゼルスの新聞記者である日系人の主人公を中心に描いた作品で、のちに日本では『山河燃ゆ』というタイトルで大河ドラマ化されている。米国でも放送が検討されたが、日系人の描かれ方が事実とは異なる部分が多いということで、実現しなかった。(ハワイの有料チャンネルでは放送されている)。

 このように1970、80年代の有名な作品といえば、日本国内国外問わず、事実に基づいた歴史書というより、「小説」というイメージが強い。

 1990年から2000年代になると、ノンフィクションや歴史書、インタビューをまとめた書籍が増えてきていると感じられる。

 戦後から時が経つにつれて、実際の経験者が減るなかで声を、経験を、残したいという思いが日系人だけでなく、日本人の中でも強くなったのではないか。また、あまり戦時中のことを語りたがらない一世、二世に比べ、その時代のことを知りたい三世、四世の登場も関係しているだろう。

 今回は筆者が気になった作品を2つほどより詳しく紹介したいと思う。

『テディーズ・アワー』

 日系カナダ人の主人公が、祖父母をカナダに連れて行こうと日本を訪れたまま日米開戦、カナダに帰れなくなり、第二次世界大戦の間、日本放送協会(NHK)で対米国のラジオでパーソナリテイを務めるストーリー。

 フィクションだが、実話にも基づいている。第二次世界大戦では日本軍は短波放送の仕組みを使い、日本に有利な情報を海外に流したいと考えていた。主人公のテディ・古本は、カナダでは「バンクーバー朝日」という日系野球チームに所属していたため、北米の野球ファンの間ではちょっとした有名人だったこと、また米国留学で英語を習得していたことから、留学時代の知り合いで、日本軍の下で働いている万城から、ラジオのパーソナリティの仕事を頼まれる。戦争が進む中、自らのアイデンティティに悩みつつ仕事をこなすテディの様子がとてもよく描かれている。

 第二次世界大戦中や戦後、日系人が陸軍情報部として活躍したという話は結構聞くようになったが、戦時中に日本軍側で活躍し、敵国に日本に有利な情報を流していた日系人がいた点は興味深く新鮮だった。同じ立場で「東京ローズ」と呼ばれた日系女性もいたが、戦争によって様々な立場に立たされた日系人の姿の一例といえるのではないか。

 ストーリーでは日本の戦時下の状況も知ることができるので、筆者のように戦争を知らない世代にとって、第二次世界大戦中の日本を知ることができる一冊ともいえるだろう。

『あの日、パナマホテルで』

 中国系米国人のジェイミー・フォード氏による小説。第二次世界大戦時のシアトルにおける中国系米国人の少年と日系人の少女の淡い恋愛を描いた作品だ。主人公の少年が、大人になり、7年介護した妻を亡くした「現在」と第二次世界大戦の「当時」の二つの軸で物語は語られている。

 インターナショナル・ディストリクト周辺(ID)の地名、店名が多く登場し、馴染みのある人にとっては、頭の中に簡単に情景が浮かんでくる。その時代を知らない世代でも、物語に入り込むことができた。

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 この2作品は歴史書というよりは、小説に近い。あまりにも実際と離れたイメージを読者に抱かせるような日系人の登場のさせ方はいかがなものかと思うが、時代背景などは現実に起きていることでもある。

 また日系人を知らない人々への「知ってもらう入り口」として、小説や映画が果たす役割は大きいとも考えている。まずは日系人が登場する読みやすい小説を読むことを、新たな年の始まりに始めてみるのはどうだろうか。

 小説でも、日系人作家で初めて米国探偵作家クラブ賞を受章したナオミ・ヒラハラさんの推理小説を含め、様々なジャンルで日系人関連のストーリーを見つけることができる。筆者は日系人関連でおそらく一番最新の小説といえるジェイ・ルービン氏の『日々の光』を新年の始まりとともに読み始めようかと思う。

(岩崎 史香)